よろづのことは頼むべからず

「ひとつの立場にとらわれない、少なくともそういう傾向が強かったらしい兼好は、物事に頼る、という人生態度を否定する。その場合の物事は、権勢・財産という、いわば世俗の栄華をさす場合は比較的わかりやすいが、学才・人徳という、世俗とはかかわらないものも含まれてくる。主従の関係や友情さえ頼りにならない、と兼好は述べ、さらに他人だけでなく自分自身もその中に入れる。(略)それは、人をも自分をもあてにしない、変わりやすく頼みにならないことそのものがこの世の真実であるという認識である。(略)誠意や信義が守られれば、それは予想以上のことになり、おおいに喜び感謝することができるだろう。だから、これは人間に対する諦めでは決してない。同じ現象に対して幸福感を持てるか持てないかは、ひとえにその人の心の持ち方にかかっているのである」

著 荻原万紀子 NHK高校講座古典より