下流志向

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)

引用
「精神科のお医者さんにきいたんですけれど、思春期で精神的に苦しんでいる子どのたちの場合、親に共通性があるそうです。子どもの発信するメッセージを聴き取る能力が低い親が多い。(略)生きるということは、いわば一つの曲を生涯かけて演奏することです。ある人の生涯のさまざまな行動や言葉のほんとうの意味は、曲を最後まで聞かないと確定されない。(略)だから親に求められる仕事は交響曲を注意深く聴くリスナーに求められるものと変わらないと思うんです。ある楽節の美的価値は聴き終えるまで確定できないように、子どもの発するノイズをシグナルに変換するためには、一つとして聴き漏らさないように、敬意と忍耐をもって静かに耳を傾けなければいかない。そういうふうに考えると、子どもを「製品」として考えて、それに外形的・数量的な付加価値を乗せて、それを親の成果として周りに示すという発想がどれほど危険なものであるかわかると思うんです。「製品」は歌わないけれど、子どもは歌っているわけですから。それを歌として聴き取れるのは、とりあえず親しかいない」

子どもではないが、肉親との葛藤に悩む自分に、こう接すればいいのだと、光明が見えた言葉。肉親の存在で自分は人生に失望したと感じて、肉親を憎んでいたが、癌末期で死んでいった友人と同じく、肉親は、身をもって人生の厳しさを教えてくれたのだと感謝すべきかもしれない。肉親の存在によって自分は強くならざるを得なかった。